『害虫』か『それ以外』か
2025-09-11

ペストコントロール業務管理部です。最近は、同定の精度保障を求められることが多くなり、全員が画一的な分析を行えるよう、新人教育として人に昆虫同定を教える機会が多くなってきました。人に同定を教えることは、自分で同定を行う事よりもはるかに難しいですね。人に教える中で、自分個人で同定を行っているうちは言葉にしていなかった感覚や、「あの部分」等で呼んでいた昆虫の部位など、曖昧にしていたことの多さに気づかされます。修行のやり直しではないですが、最近は、検索表や図鑑を収集しなおし資料を纏める事に力を入れています。
そんな中で、「新訂 原色昆虫大図鑑 第Ⅲ巻」のハエ目の項を読んでいた際に、種類の横に【害虫】という表記がつけられていることに気づきました。なるほど、ハエ目は害虫とされる種類が多いグループですので、このような表記があることも納得です。これは面白いと思いながら馴染みのある種類をいくつか見ていくと、センチトゲハネバエには【害虫】の表記がついていませんでした。トイレなどでみられる虫なので、私の感覚では害虫に入れていいと思っていました。そして、「これは【害虫】にどこまでを入れるかの問題」なのかしら? と思い、興味をそそられました。
「この世の中に雑草という植物は存在しない」という言葉がありますが、同じ様に『害虫』という虫は存在しません。生物学上の分類に則った分類では、害があるかどうかは関係なく、平等に一生物として扱われます。『害虫』というくくりは、大雑把に言ってしまえば、天然自然の物ではなく「害」があるかないかという人間の都合に合わせた分類になります。
害虫は、農作物や園芸樹木等に被害を与える『農業害虫』、人体に衛生的な被害を与える『衛生害虫』、「人に不快感を与えること」を「人に害を与えている」とみなす『不快害虫』などにカテゴリ分けされ、それは社会の状況や関連する法律、はたまた人間の主観によって、何がどのカテゴリに分類されるかは変わっていきます。例えば、『衛生害虫』はとても狭い狭い範囲では「感染症を媒介する虫」の事を指し、吸血性の蚊やノミ、シラミなどのみを指すことがあります。少し意外ですが、ゴキブリは病気を媒介したという根拠が今のところないため、この分け方では『衛生害虫』には入りません。しかし、広い意味で衛生に関係する昆虫としてゴキブリを『衛生害虫』に含めることもありますし(現在では、こちらの感覚の方が一般的ではないでしょうか)、医薬品もしくは医薬部外品の承認を受けた殺虫剤の対象生物としてもゴキブリは含まれています。また、さらに人に刺咬害を与える生物として、ハチやムカデなどが『衛生害虫』に含まれる場合があります。これに関して、毒を持つセアカゴケグモは衛生害虫に含めますが、では「人を嚙む力は非常に強いけれども毒は無いようなクモ」は衛生害虫に含めるのかなど、害虫に含めるか否かは、非常に曖昧なものなのです。
「『害虫』という言葉自体が、人間本位の非常に身勝手な言葉だ」という人もいます。人間が勝手に生物を分け、人間の都合に合わせて命を奪うのは良くないという考えです。しかし、私は『害虫』という言葉は必要だと考えています。なぜならば、『害虫』か『それ以外か』という考えをしなければ、害のない生き物をも殺すことになると考えているからです。人間が活動を行っていく上で、他の生物の存在が邪魔になる(害になる)事は避けては通れません。そんな中で、「害」になる生物はどれで、「害」がどのようなものでどの程度のものなのかを評価できなければ、適切なコントロールなどできないからです。
ペストコントロールに於いて、何故同定が必要なのかという最初の話につながりますが、やはり同定ができなければ、その生き物に対する評価をすることもできません。また、生物の害の評価はシチュエーションによっても大きく変わります。
極端な例かもしれませんが、当社で行っている高清浄度エリアの防虫では、あらゆる昆虫が『害虫』扱いとなります。なぜなら、非常に小さな虫の1匹でさえ、「異物混入」や「環境汚染」の原因となってしまうからです。もちろん、これは、他の生物が入り込めないような、バリア性が高い建物構造を維持できているからこそで、その内部に入ってしまった生き物は生産にとって不都合な存在=『害虫』になります。それを用意できずに、あらゆる生き物を排除するというのは困難な事なのです。
ー参照ー
「管理基準値の指標について ―捕獲数0目標は可能か?」https://www.sanipro.co.jp/blog/about-indicators-of-control-threshold
「むし0の建物空間は可能か?」https://www.sanipro.co.jp/blog/is-it-possible-to-create-a-building-space-with-zero-insects
※当社ブログをご参照ください
屋内環境で昆虫が出たとき、それは害のあるものなのか、対処が必要なものなのかの見極めが大事になります。それをすぐに判別し情報共有できるような管理体制を作ることも、我々が目指す防虫管理業務の一つです。
ペストコントロール業務管理部 技術部長
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