むし0の建物空間は可能か?

衛生環境管理サービス

先月に、『管理基準値の指標について ―捕獲数0目標は可能か?』という記事を書きました。今回は逆に、「完全に昆虫の数が0になるためには、どのような空間が必要か」を考えてみたいと思います。

 

〇昆虫はどこにでもいる
ゴキブリや蚊に悩まされる季節になると「虫なんていなくなればいいのに」という嘆きを耳にします。虫が好きな身としては、もやもやとした気持ちになる話ですが、「嫌い」や「迷惑」といった感情も、人の営みの一つなのでしょう。

ただ、本当に地球規模で昆虫がいなくなれば、恐らく生態系が崩れ人類は絶滅してしまうと思われます。私が昔読んだ本では、昆虫は30万種以上が知られていると書かれていました。今では、発見された昆虫の種類はさらに増えている事でしょう。また、昆虫は数が非常に多く、土壌中、大気中、身の回りに数えきれない数の昆虫が蠢いています。昆虫が少なく思われる都市部でも、少し土を掬ってみれば、トビムシ類などの微小な土壌動物を見る事ができますし、空中にはユスリカ科などの飛翔性昆虫が飛んでおり、ライトトラップを仕掛けると屋内でも意外なほど昆虫が捕まったりします。このような状態で、虫を0にするのはまず無理な話ですね。

なので、今回は、「虫がいない建物空間」を作り、人間がそこに入る事を想像してみたいと思います。どうすれば、生活圏内に虫がいない空間を作れるでしょうか?

 

〇外界との完全遮断
まず、丈夫で隙間の無い壁・床・天井を作ることから始まります。建材を組み合わせた建物では、どうしても建材と建材の間に隙間ができますし、熱などの影響を考えるとどうしても隙間を作る必要ができてしまうようです。1mm以下の隙間でも、トビムシなどの微小な虫類は侵入してくることができてしまいます。

また、人が入る建物ですから外気の取入れが必要ですが、空気だけを通して虫をシャットアウトしなければなりません。フィルターを通した専用の空調設備が必要となるでしょう。

 

〇扉からの侵入防止
建物ですから、人の出入りを考えなければなりません。人の出入りできる隙間があれば、昆虫は侵入できてしまいます。これを防ぐ術をかんがえてみしょう。まず、基本ですが、開放を最小限にすることが大切です。人が出入りする際だけ、開け閉めできるようにしておかなければなりません。また、開口部はなるべく狭い方が良いでしょう。扉が広ければ広いほど、解放時に虫が入ってくる確率は高まります。また、解放時に飛翔している昆虫が内部に吹き込んでいかないように、内部から外部へ風の流れがあると良いですね。

衣服や靴に付着して、虫を持ちこんでしまう事も考えなければなりません。体に付着した虫を掃除機などで落とすことや、前室を作り、そこで外から着てきた服を着替えてしまうことも大事かもしれません。

 

〇内部での繁殖防止
さて、ここまで対策しても虫の侵入を完全に0にすることは難しいでしょう。特に、生活空間に多く生息するチャタテムシなどの微小な昆虫の持ち込みを0にすることは、非常にコストがかかります。

持ち込んでしまった昆虫が、内部で繁殖してしまう事にも注意しなければなりません。チャタテムシ類などは、温湿度の条件が揃えば、カビなどを餌にして繁殖することが可能です。なるべく低温で、乾燥した環境にした方が良いでしょう。使用できるのであれば、殺虫剤などによる制御も有効です。

これだけの事をすれば、「虫がいない建物環境」に近づく事ができるのではないかと考えられます。日常空間で「一匹も虫がいない」を作ることがどれだけ難しいかがわかりますね。虫がいない空間を作ることは非常に高コストなのです。

逆に、クリーンルームなど、虫がいない前提で作られた空間でも、昆虫モニタリングが必要な理由もここにあります。建物の小さなエラーから昆虫の侵入・内部での増殖の引き金になる事があります。虫がいないかをモニタリングすることは、そのようなエラーが無いかを監視し、清浄な製造空間を維持する事につながるのです。

 

ペストコントロール業務管理部 技術部長

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