ファラオ・アント(Pharaoh ant)

衛生環境管理サービス

先日、タイのサニプロタイランド(Sanipro (Thailand) Co., Ltd.)へ出張に行く機会がありました。日本と同じような管理レベルでの防虫を、タイでも行えるようにするための、技術指導と現地視察が目的です。

もちろん、お仕事ではありますが、個人的には日本で見られないような害虫や、その害虫が起こす問題、その生態から駆除に至るまでを実地で見られるのが楽しくもあります。

そんな害虫の一種を紹介いたします。

ファラオ・アント(Pharaoh ant)というアリをご存じでしょうか?
体全体が黄褐色で、大きさは2.0~2.5mm程度の非常に小さなアリです。

Pharaoh ant.png

このアリの最大の特徴は、建物の屋内に巣を作りやすいという事です。

タイでは、いたるところでこのアリに出会う事になりました。

極端なところでは、壁に貼ってあるポスターの下に、このアリが数匹かたまりになって潜んでおり、ポスターをめくった瞬間に一斉に散って素早く壁のクラックの中へ消えていく...という状況も目にしました。

しかも、外に近い場所では無く、清浄管理された製造室の中での事です。
このアリの凄まじさを見たような気がしました。

ファラオ・アントは汎世界種であり、熱帯を中心に世界中に分布しているアリです。
『ファラオ・アント』という名前を調べると、エジプトの「ファラオの災厄」がもとになっているのではないかという説がでてきましたが、詳しくはよくわかりませんでした(「ファラオの災厄」というと蝗害などでしょうか?)。

「災厄の名前を背負った害虫」というと、少し格好いい気もします。この名前を付けた人たちも、このアリの厄介さに辟易していたのでしょうね。

このアリは日本にも生息しており、和名ではイエヒメアリといいます。
外来種であり、日本の本州では暖房設備のある家屋内でのみ見つかっています。おそらく、野外では本州の冬を越せないのでしょう。

それでも、一度屋内で繁殖すれば、駆除は非常に困難になります。
駆除が困難な理由としては、「一つの巣に女王が複数いる多雌性」であり、「コロニーは分巣によって増える」「巣ごと移動する事ができる」などの性質を持つことが大きいと思われます。

アリというと、「女王アリが1匹と複数の働きアリ」がいて、「巣は土の中に穴を掘って暮らしている」というイメージがありますが、イエヒメアリは、そうではないのです。

例として、段ボール箱の中に巣を作り、箱の移動とともに「その巣ごと屋内に持ち込まれてしまう」という事もありえるのです。

実は、イエヒメアリだけではなく、アリの生活スタイルは種類によって大きく異なります。
今の季節、日本の本社でも、アリに関する問題が持ち込まれることが多くなりました。
アリの対策は、「屋内に営巣している物」か「屋外からの侵入」なのかで大きく変わります。
なので、まずはアリの種類を調べる事が大事になってきます。

アリは、PCOでは難防除害虫であると言われています。これは、巣ごと駆除しなければ、問題がいつまでも継続してしまうという事や、侵入経路の発見の難しさ、移動能力の高さなども挙げられますが、「種類を調べる事の難しさ」というのもアリの駆除を困難なものにしている要因の一つでは無いかと思われます。

本社に持ち込まれるアリの問題では、コンクリートのひび割れの中に巣を作り屋内に侵入しやすいトビイロケアリや、屋内の狭い隙間等に営巣可能なルリアリが原因である事が多いように感じています。

私は、まだ日本でファラオ・アント(イエヒメアリ)の被害には出会ったことはありません。
しかし、いつか出会ってしまう日も来るのでしょう。外来生物として猛威をふるっている、アルゼンチンアリや、一時期話題になったヒアリの問題などもあります。
アリは種類が多い生き物ですので、多様な生態に対応すべく、勉強の日々が続いています。

○その他、タイで見たアリ

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ペストコントロールグループ リーダー

参考文献:

  • 寺山守、久保田敏、江口克之「日本産アリ類図鑑」
  • 山根正気、原田豊、江口克之「アリの生態と分類―南九州のアリの自然史―」
  • 一般財団法人 日本環境衛生センター「住環境の害虫獣対策改訂6版」
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