ゴキブリを見分ける意味を考える
2025-12-22

「日本には現在約60種類ほどのゴキブリが生息しています」
……と切り出すと、「そんなに多いのか」とびっくりされた上で60種類のゴキブリを想像するのか、あからさまに『嫌だなあ』という顔をされる……という事が良くあります。そのような時は、私はこう続けます、
「ご安心ください。60種類と言いましても、ほとんどの種類は沖縄などの南西諸島に生息しており、本州で見られる種類はわずかです。また、60種類のうちほとんどの種類は、林床や朽木の中などで暮らす、いわゆる屋外性の種類であり、人家などの建物内で繁殖する事のできる種類はごく僅かですよ」
逆に、「ゴキブリに種類があるんだ」と驚かれることもあります。ゴキブリは全てゴキブリであり、それ以上の細かい分類なんて無いものと思っている方も結構居るようでした。そんな時は「チャバネゴキブリって聞いたことありませんか」と聞くと、「なるほど、チャバネゴキブリじゃないゴキブリも居るんだね」と納得していただけることが多いです。
さて、このような話をした理由として、『防虫を行う上で、ゴキブリの種類を見分ける必要はあるか』という事について考えてみたいと思ったからです。日本には約60種類のゴキブリがいます。さて、建物の防虫を考えるうえで、これらの種類を見分ける必要があるでしょうか?
① 屋外性と屋内性
先にも少し触れましたが、日本に生息するゴキブリのほとんどの種類は、人家などの建物内で繁殖する事がない屋外性のゴキブリです。朽木の中に住み朽木を食べて暮らすオオゴキブリや、林床や草原に暮らすツチゴキブリ、洞窟やアリの巣の中などで見つかることがあるホラアナゴキブリなど、一口にゴキブリと言っても多様な種類が暮らしています。これらはゴキブリですが、屋内で繁殖する事は無いとされているため、防虫を行う上ではあまり重要視しなくて良い種類です。これらを屋内性のゴキブリと同じようにカウントしてしまうと、防虫を考えるうえで初動を大きく間違える事となります。
② ゴキブリ科のゴキブリたちとチャバネゴキブリ
では逆に、屋内性のゴキブリとはどんなものが居るのでしょうか。
まず、最もポピュラーな種類としてクロゴキブリがあげられます。おそらくですが、日本人の大部分がゴキブリと言われて思い浮かべるのはこの種類ではないでしょうか。それに近い仲間として、最近「都内に現れるようになった巨大ゴキブリ」として有名になってきたワモンゴキブリや、それによく似たトビイロゴキブリ、日本の在来種であるヤマトゴキブリ(前三種は外来種の可能性が高いとされている)なども屋内性の強い種類です。そして、最も怖い屋内性の種類として、キングオブ害虫チャバネゴキブリが挙げられます。屋内性の種類というのは、いわゆる人家などの人口の建物内で繁殖する事ができ、汚損や不快感等の被害をもたらす害虫です。その中でも、特にチャバネゴキブリは人口の建物以外で見つかることは殆ど無いと言っていいほどに屋内生活に特化した害虫です。
さて、これらの種類を見分ける必要があるでしょうか。
まず、チャバネゴキブリは先に挙げた他のゴキブリ類と大きさや全体の雰囲気が大きく異なります。知らない人は「これもゴキブリなの?」と言うくらいに、クロゴキブリなどとは違った姿をしています(名前は有名なのに、姿を見たことがある人は少ない不思議なゴキブリだと感じます)

生態も、異なり繁殖のスピードや好む場所が異なるためチャバネゴキブリは、その他のゴキブリ類とは明確に区別して考えるべきだと私は考えています。まあ、まずクロゴキブリなどとは明確に異なるため見分けない方が難しい種類ではあるのですが。
さて、その他の、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、ヤマトゴキブリですが、これらはみな似たような生態をしています。違いとしては耐寒性などに明確な違いが見られますが、駆除方法としては皆同じような処置になります。成虫を見分けるのは容易なため見分けても良いとは思うのですが、成長途中の幼虫などは同定が難しいため、種類を特定するのが非常に困難な場合があります。
③ チャバネゴキブリとモリチャバネゴキブリ
チャバネゴキブリは、クロゴキブリとは明確に異なるため区別は容易……と先に書きましたが、非常に厄介な存在としてモリチャバネゴキブリとヒメチャバネゴキブリの存在があります。この2種は、チャバネゴキブリに非常によく似ているのですが、両社とも屋外性の種類であり、①で書いたように同定を間違うと防除の初動を見誤ることになります。
モリチャバネゴキブリが屋内に侵入したとしても、内部で繁殖はしないため大きな問題にはなりませんが、チャバネゴキブリは、非常に厄介な屋内害虫です。この2者を見分ける事はペストコントロールを行う上で、非常に重要になります。
一応、胸の模様の形で、ある程度の見分けはできるのですが、曖昧な見た目の個体もあり判断は慎重に行う必要があります。
ヒメチャバネゴキブリは、モリチャバネゴキブリ以上にチャバネゴキブリと見分けがつきにくいのですが、現在、本州で見られることはほとんどないためここでは割愛します。
④ その他
その他にも、害虫になりうる種類として、クロゴキブリやヤマトゴキブリよりはやや小さく、チャバネゴキブリなどよりはやや大きいキョウトゴキブリなどもまれに捕まることがあります。また、近年は、外来種でありペット等の餌として販売されているトルキスタンゴキブリが捕獲される例も増えてきました。
一口にゴキブリと言っても、種類によって行うべき対策は様々です。ペストコントロール系の書物には、害虫種としてのチャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリなどしか載っていない場合が多いため、それ以外の種類が捕まった際に現場が混乱してしまう事があると聞きます。
逆に、細かな同定をしようとして対応が遅れてしまう、という事もあるように感じます。ワモンゴキブリの幼虫かトビイロゴキブリの幼虫か微妙な種類が捕まってしまい、報告書がなんとも歯切れの悪いものになる。そんなことがあっては、スピード感が大事な現場では対応に遅れが出てしまいます。
適切な駆除を行うためには、どこまでの知識を有して「どこまでを見分けるか」という判断が重要なのかもしれません。
ペストコントロール業務管理部 技術部長
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